思考回路のショートした、「なりたい」になれない哀れな人間【2022.12.15】
優しい人になりたいと、毎日思っている。自分はどうしようもない人間で、とんでもなくコミュ障で、関わる人全員を嫌でも不快にさせてしまうという自覚があるから、せめて優しい人でいたいとは常に思ってる。
先日、エレベーターを待ってたら、子供を二人抱っこしたお母さんがやってきた。赤ちゃんの方はすやすや。でも、赤ちゃんのお兄ちゃんらしき子はえげつない音量で泣いてる。生きのいいマグロぐらい、お母さんの腕の中でびっちびちしとる。ほんまお疲れさんやで……
お母さんの両手が塞がっているのを見たワイ、ぴーんと来たわけよ。
よっしゃ、エレベーターに乗るのを手伝おう。優しい人ゲージをぐんと伸ばすチャンス。
両手が塞がっているっちゅうことは、エレベーターのボタンを押すことができへんってことやんな。よし、分かった。ここは私が先にエレベーターに入って、『開』のボタンを押してあげよう。コミュ障やけど、ここで一言、「どうぞ乗ってください」、これさえ言えたらもう完璧よ。後はお母さんに乗り込んでもうて、お母さんが降りる時にも『開』ボタンを押して出てもらおう。お母さんきっと喜ぶぞ。こういうお母さんはな、優しさに触れる必要があんねん。白って200色あんねん。
というわけで、頭の中でもシミュレーション完璧、自信をつけたワイは、到着したエレベーターに飛び乗ってだな、言ったわけだ。
「ど、どう、どうぞ乗ってくだひゃい」と。まあ確かにちょっと噛みました。噛みましたとも。こちとら引きこもりでほとんど人と会話しておりませんから。声もかすれてたとは思いますわ。でも確かに私はそう言えた。これはすごいぞ。優しい人ゲージもぐんとアップなわけですわ。
ほんならそのお母さんが答えたわけ。
「あ、大丈夫です」と。
「大丈夫」!?!?!?!?!?!?
えっ!?!?!?!?!?!?
えっ、「大丈夫」!?!?!?!?!?!?
シミュレーション通りに物事がいかんと、私の思考回路はショートする。ぱんって目の前で火花が散って、真っ暗。思考回路がショートしたということは、それすなわち「考える力がゼロになる」ということですわ。
「あ、そう、そうですか、お先に……」とだけ言って、『閉』ボタンを押すワイ。なんで大丈夫って言われたんやろう。もしかして、同じ空間に入るのが嫌やったかな。盛大に一言を噛んだから? 変な人やと思われた? 確かに全身真っ黒だったかもしれん、それにマスクもしてるし。そんなに私と同じ狭い空間に入るのが嫌やったかな。気持ち悪いと思われたかな。どこをどうすれば乗ってもらえたかな。もう一回一からやり直させてくれ。もっと上手くできる。次はもっと上手くできるはずなんや……!
チン、とワイのフロアに着くエレベーター。扉が開いて気付いた。
もしかして、私が降りて、お母さんに先に行ってもらえばよかったのでは?
そしたら私は扉も押さえられたし、階数ボタンを押すこともできたし、何よりこのくっそ寒い外にお母さんと荒ぶるギャン泣きボーイを置き去りにする時間も減らせたのでは? 私が降りれば、万事うまくいったのでは? どうして私は先に乗り込んでしまったんだ? そして、すぐに「降りる」という判断ができなかったんだ?
階下から聞こえてくるギャン泣きボーイの声と、なだめるお母さんの声。お母さんを寒空の下に待機させたまま、ワイは一足先にあったかハイムに直行ってか? おい。優しい人になりたかったんじゃなかったのか。今のこの自分のどこが優しい人なんだ。今の私は無情で残酷すぎやせんか。情けない。情けなすぎる。私のすることが全部裏目に出ている。何もかもの選択肢を間違っている。これが恋愛ゲームやったとしたら、好感度爆下げで一発ゲームオーバーですわ。
優しい人になりたいと、毎日思ってる。でも、「なりたいと願うこと」と、「実際になること」の間にはもう、大きな大きな壁があるんですわ。今日も私は無慈悲で残酷な人間として生きております。埋めてくれ、私を。
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